FDA安全通信 : 乳児の頭のかたち形成用の枕を使わないでください
11月は日本では乳幼児突然死症候群の対策強化月間です。ポスターやリーフレットを目にされる機会があるかもしれません。
そんななかアメリカで衝撃的な声明がアナウンスされていました。それは米国食品医薬品局(FDA)が乳児の頭を形成するとされている枕については、FDAによって承認されておらず、使用すべきではないという警告です。(2022/11/3)
出典
https://www.fda.gov/medical-devices/safety-communications/do-not-use-infant-head-shaping-pillows-prevent-or-treat-any-medical-condition-fda-safety
(自動翻訳で日本語でもある程度正確に読めます)
FDAというのはU.S. Food &Drug Administration;アメリカ食品医薬品局の略称で、アメリカ合衆国の政府機関です。日本でいうと厚生労働省に近い存在です。
またFDAは、消費者が通常の生活を行う際に接する機会がある様々な製品(食品、医薬品、動物薬、化粧品、医療機器、玩具など)の安全性・有効性を確保するための機関でもあります。
- 医薬品や医療機器、化粧品などの安全性の検査
- メディアやSNSを媒体とした製品情報の監視
- 違反品の取り締まり
などの活動を行っています。
警告の内容をかいつまんで内容をご紹介すると、
- 枕は乳児にとって危険な睡眠環境を作り出し、窒息や死亡のリスクにつながる可能性がある
- 乳児の頭の形や対称性を変えたり、他の病状を治療すると主張したりして販売されているが、効果は実証されていない
さらにご両親に対しては
- 乳幼児突然死症候群 (SIDS) を含む突然の乳幼児死亡 (SUID)、および窒息死の危険があるため、乳幼児用頭部形成枕は使用しないでください。
- 乳児の頭を形成する枕を持っている場合は、捨ててください。他人に寄付したり、与えたりしないでください。
- 乳児の頭を形成する枕は、フラットヘッド症候群(直訳は扁平頭症候群。変形性斜頭症や変形性短頭症のこと)やその他の病状を予防または治療するのに安全または効果的ではないことに注意してください.
- 乳児の頭の形が異常な場合は、どう対処すればよいかについて医師に相談してください。乳児用頭蓋形成枕を使用すると、フラットヘッド症候群などのみためだけの問題なのか、より深刻な頭蓋縫合癒合症なのかについてのマネジメントに必要な評価を遅らせる可能性があることを知っておいてください。
- 国立衛生研究所 (NIH) とアメリカ小児科学会(AAP) は、安全な睡眠環境を促進するために、乳児は、枕、おもちゃ、柔らかいもの、またはゆったりとした寝具を使用せずに、平らな (傾いていない) 表面のむき出しのベビーベッドで仰向けに寝ることを推奨しています。安全な睡眠環境に関する AAP ガイドラインは、NIH Safe to Sleep Campaignで説明されているように、SUID のリスクを軽減することを目的としています。
- 安全な睡眠環境について詳しくは、赤ちゃん製品の使用に関する FDA の親/介護者向けの推奨事項をご覧ください。https://www.fda.gov/medical-devices/baby-products-sids-prevention-claims/recommendations-parents-caregivers-about-use-baby-products
- あなたがお世話をしている乳児が頭部形成枕を使用しているときにケガや有害事象を経験した場合は、FDA と製造元に報告することをお勧めします. あなたの報告は、他の情報源からの情報とともに、FDA が医療機器に関連するリスクを特定し、よりよく理解するのに役立ちます。
- 乳児用頭蓋形成枕は頭蓋縫合早期癒合症を治療しないことに注意してください。
医療提供者に対しては、
- 乳児の頭を形作る枕の使用を思いとどまらせ、リスクについて患者を教育する必要がある。
なかなか強い口調の警告でびっくりしました。
私もこれまで、赤ちゃん用の枕については、ネットやSNSなどの口コミで「治った~」との書き込みを見て、安価ですし、それで治るなら最初のお試しとしてはいいんだろうなと認識していました。
一方で、
「枕からすぐに落ちてしまって意味がなかったです」
「枕のなかで斜めになって姿勢がかたまっていました」
というお声も、受診されたお母さんたちから頻繁にお聞きしていました。
クリニックでもネットで口コミの多かった各種の枕を買い込んでいます。診察室で確認してみるのですが、赤ちゃん個々の向き癖角度や成長にフィットした最適枕を選ぶのもたしかに難しいぞ、というのが実感です。
今回、この警告が出たことで、赤ちゃんの睡眠環境を安全性の視点からも、もっと情報提供していく必要性を感じています。
当院HPの むきぐせとは にも書いていますが、軽度の変形性斜頭を治すには「覚醒しているときに」運動発達を促す体操が有効です(残念ながら具体的な方法を熟知している医師や医療関係者は数少ないですが)。逆に重度変形の場合にまで、自然に治る一辺倒でご両親を説得することは赤ちゃんご本人にとって大切な治療機会を奪うことになりそれはそれで倫理的な問題があるのではないかと思います。
アメリカでは、枕についてもこれから政府機関が管理するということなんでしょうね。日本ではそこまで議論が熟していませんので、まだしばらくは混乱が続きそうです。