赤ちゃんのレントゲン検査のおはなし
乳児がレントゲン検査を受けても大丈夫ですか?
レントゲン検査を受けることで、病気になりませんか?
レントゲン検査を受けないで済ますことはできませんか?
そのような、保護者のご心配の声を多くお聞きしています。
レントゲン検査はヴィルヘルム・コンラート・レントゲン博士が発見したX線を使用する検査です。
は放射線の一種で、医療だけでなく製品の非破壊検査など生活のさまざまな分野で役に立っています。
ただ核兵器や原子力発電所や食品輸入規制の話題と連想されることも多く、X線は目に見えませんので不安になるのはよくよく理解できます。
当院の考え方と取り組みを3つに分けて、ご説明します。
① レントゲン検査はどうして必要なの?
A:頭の異常を見逃さないため、正しい診断を下すためです。
乳児の頭の形の変形の診察で重要なことは、変形の原因になっている病気の早期発見、早期治療であり、そのためにはレントゲン検査が必要不可欠です。
疑う病気の名前は「頭蓋縫合早期癒合症*」と言います。そのほかにも「石灰化頭血腫」や「骨腫瘍」や「外傷性頭蓋変形」などを疑う時にもレントゲン検査が役に立ちます。
*頭蓋縫合早期癒合症は、治療を強く推奨する深刻な病気です。
発見が遅れれば、変形がどんどん進行します。頭蓋骨が成長するときに働く縫合線という部分が、通常よりも早く閉じてしまう病気で、小頭症や頭蓋内圧亢進を引き起こす場合には開頭手術が必要です。癒合した部分を切り開いて、脳の成長スペースを確保してあげる必要があるのです。
両親や小児科の先生から「かんたんな見分け方を教えて」、とよく言われるのですが、長年やっていると難しさが沁みてきます。経験がある医師が診察をすると、頭蓋骨のおおまかな形や顔つきや触診で、ある程度の診断がつきます。しかし絶対に確実かと言えば、そうではありません。変形が重度か軽度か、大泉門が大きいか小さいかというのは参考にはなりますが、絶対的な目安ではないからです。向きぐせがあるかどうか、もある程度の目安にはなりますが、向きぐせと病気によるものとを同時に発症していたお子さんもいます。
医師が臨床診察を行なって、むきぐせによる変形とは違う印象を少しでも持ったら、やはりレントゲン検査が必要です。頭蓋縫合早期癒合症の場合には、その月齢(年齢)では本来開いているはずの縫合線が判別しにくくなったり、眼窩(眼球がはいっているお部屋の部分)や顔面頭蓋底の異常があったり、後頭部が狭くなったり、頭蓋骨の厚さに変化があったりと特徴的な結果になります。
しかしレントゲン検査にも弱点があり、撮影時にお子様が激しく動くと手ブレ写真のようになって検査してもきちんと評価できません。
最終的に本当に病気が疑わしい場合には、鎮静(入眠剤シロップを飲んでもらって)精密検査すなわち頭部CTやMRIなどが必要になりますので、治療経験の豊富な拠点病院にご紹介いたします
② すべての赤ちゃんにレントゲン検査が必要なの?
A:お子様の頭のかたちが心配だからといって、全員がレントゲン検査を受ける必要はありません。
医師が診察を行なって病気の疑いが晴れない場合に行います。 私の経験では、100人診察するうち数人にはレントゲン検査を提案するかんじです。
むきぐせによる頭の変形は軽度なものも含めると海外からの調査では2〜4ヶ月児の40%ぐらいいると言われています。一方で、病的頭蓋変形の典型である頭蓋縫合早期癒合症は稀な病気で数千から数万人に一人程度です。
それ以外に、ヘルメットによる頭蓋形状矯正治療(ヘルメット療法)を開始する前には、レントゲン検査等で除外診断をすることが推奨されています。万一、頭蓋縫合早期癒合症の早期を見落としていた場合には、期待する効果が得られないばかりか、本来受けるべきであった癒合症の手術の適切な治療時期を逸する可能性があるからです。まったくあり得ないというわけではなく、ヘルメット療法中にも遅発性の発症を疑ってレントゲン検査を行うこともあります(幸い、私の経験のなかでは見落としはありませんでしたが、稀な病気であることに助けられているのだ、といつも気をひきしめて診療しています)。そのような時には治療前と比較することも重要です。
どうしてもレントゲン検査を受けさせることに抵抗があるが、病気ではないかも心配、という保護者の方も多いです。
そういった場合、お首がすわる前であれば超音波検査という選択肢があります。
月齢2ヶ月から3ヶ月ぐらいまでならば、縫合線が大きく開いていること、そして赤ちゃんが検査中に動かずにいてくれることなどから、超音波検査によって調べることができます。
月齢が上がってくると、縫合線の自然閉鎖が少し進んで判別しにくくなってきます。 検査を受けるのであればお首がすわる前をおすすめします。
ただし、超音波検査がレントゲン検査の完全な代用になるかというと、そうではありません。ちょっと難しい話をするとCOVID-19で話題になった検査の感度・特異度(偽陽性とか偽陰性)の検証がまだ十分ではなく、医師の診察の見立てと併せての画像診断が必要です。また表面に触れている縫合線の部分だけの検査ですので、随伴する顔の骨や、頭蓋内の骨の状況は調べることができません。超音波検査とレントゲン検査の両方が必要な赤ちゃんもいます。
③レントゲン検査の被ばく量はどれくらいなの?
当院では開院以来、レントゲン検査を行う場合には、前のコラムで述べたとおり、無駄な検査を控え、さらには1回の検査ではできるだけ被ばく量を少なくするように配慮しています。
そもそも乳児は身体が成人より小さいので、その分、撮影に必要なX線の量も成人より少なくなります。したがって、皮膚表面線量も小さくなるのですが、当院ではさらに従来のフィルム撮影ではなくデジタル化によって少ない線量で診断を可能にしています。
検査から説明まで短時間なこともデジタルの魅力です。
「じゃあ検査いってきまーす。赤ちゃんお預かりしますねー」診察室の隣が検査室です。ここまで10秒。
(がんばれー%%ちゃん、ぴえーん:台から落ちないようにふわふわタオルで包むのでちょっと泣く声、パシャ、はーい終わりー)
(うーん、少し斜め向いてるけどしっかり撮れてるね:画像診断する医師の声)ここまで30秒から1分。
もし赤ちゃんの頭が激しく動いてしまっていたら角度を変えてもう1枚撮影。画像をすぐに確認できるので最低限の枚数で済むこともデジタルと小さなクリニックならでは、です。
「よく頑張りました。じゃあこちらのタブレットで説明しますね」 ここまで1~2分。あっという間でした。
当院で実測した頭部レントゲン撮影時の被ばく量は、1枚あたり0.01mSV(ミリシーベルト)=10μSV (マイクロシーベルト)
私たちは日常生活のなかでは空気から、食品から、大地から、宇宙からひとりあたり年間2.4mSの自然放射線を、受けています。
したがって、当院のレントゲン検査は健康に被害を及ぼすような線量ではありませんのでご安心ください。
医療における一般的な被ばく線量については下記を参考にしてください。
- 大阪母子医療センター 放射線科
https://www.wch.opho.jp/hospital/department/housyasenka/housyasenka14.html - 大阪大学医学部放射線科
https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-radio/info.html - 成育医療研究センター こどもの医療被ばくを考えるサイトPIJON
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/pijon/index.html - 首相官邸 放射線から人を守る国際基準~国際放射線防護委員会(ICRP)の防護体系~
https://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g5.html
ちなみにICRP(国際放射線防護委員会)では、一般公衆の(追加)被ばく量参考レベルを年間1mSV以下としています。ただし医療被ばくを除きます;1mSVを医療に適用すると便益が損なわれるため。